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2021年1月14日木曜日

春の高校バレー2021男子~育成カテゴリと戦い方

ジャパネット杯 春の高校バレー2021
 第73回全日本バレーボール高等学校選手権大会

新型コロナウイルス感染症の影響で、練習時間の不足どころか、インターハイや国体など例年行われる全国大会が軒並み中止となり、この大会の開催自体も危惧されていた中で、残念ながら男子の前回優勝校の棄権がありましたが、決勝まで行いました。

近年は、野球の甲子園に限らず、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、高校生チームスポーツの全国大会がものすごく注目され盛り上がりを見せるようになりました。バレーボールも過去は3月に行われていた春高バレーも1月の大会として定着してきました。そして今年はコロナの影響で練習、遠征、そして大会とさまざまな制約・制限を受けてきた特に高校3年生にとっての集大成の大会となっています。ですから、社会的にはいろんな意見はあるでしょうが、こうして春高バレーが開催できたのはよかったですね。

さて毎年のことながら、春高バレーの試合を観ていると(といっても全ては観れていないが)、日本のバレーボールの特にアンダーカテゴリー(小・中・高校バレー)の現状や成果や課題を読み取れるのではと思いながら、注目しています。特に今年は、多くの示唆があったのではないかと考えています。

良し悪しや是非はさておき、
日本では世界の中でも小学生から競技スポーツとしてのバレーボールがさかん(熾烈な競争)で、アンダーカテゴリの技術やチーム力は高いと言われています。そういった中での集大成、ゴールとなっているのが高校生スポーツであり、花形となっている春高バレーに集約されているのかもしれません。

男子は、東福岡が優勝しました。1枚の得点力あるエースにボールを集め、そのために様々なフォローやお膳立てを緻密に行う練習をしてきたのかなと思いました。エースも聞けば、様々な課題を努力して克服しながらのエースとしての機能を果たしてきたようです。

決勝戦で対した駿台学園は、セッターのセット(トス)が縦横無尽で、アタッカー陣も多彩な攻撃を繰り出す。ブロックも組織的に行おうとする様子がみられ、チームビルディングを思考錯誤して行ってきたのかなと感じてみていました。また試合を通してポジションを変更するなど、アンダーカテゴリでありがちな、分業固定のワンパターン編成ではないところへの対応も良いなと思いました。
 準決勝で東福岡と対戦した清風も善戦、チャレンジングなチーム作りだったと思いました。また、東福岡の柳北くん(192cm)、高松工芸の牧くん(210cm)など、これまでにない大型、長身選手が、MBでブロックやクイックだけの限定的なプレーでとどまらず、バックアタックやディフェンスにも参加しているあたりも、過去には見られなかった近年の良い傾向であり、バレーボール指導者の選手の育成に対する意識も、従来のものから脱却し、将来性を伸ばす大きく育てる指導ビジョンが芽生えてきているように感じます。


高校バレーにおける戦い方のトレンドとは?

 東福岡のバレー、駿台学園のバレー、清風のバレー・・・いろんな戦い方やスタイルに違いあります。チーム戦で競い合う以上、打ちだす策やシステムに違いがあるのは当然なことでもあります。
 中学や高校バレーではしばしば、どの策がどの戦術がふさわしいのかなどと禅問答的な議論みたいのがあって、例えばエースバレーなどのように1枚か特定の選手のスパイクに依存したスタイルが、他の選手の育成を置き去りにしているかもしれない、戦術的な思考の成長を止めているかもしれないという疑問や、特定の選手にかかる負担やオーバーワークによる将来性が狭まる懸念。
 逆に、トップカテゴリへつなげる将来性を見据え、積極的にブロックシステムやオフェンスシステムを構築構築して、思考力を高めることの大切さがある。一方でそれが勝敗のアドバンテージになるかといえば、そういう確実性を担保するものではなく、シンプル(シンプルに戦うために緻密に作られたチーム)に敗れることもよくあるわけです。
 チェーンブロック、スタックブロック、サーカスバレー、立体バレー・・・様々なネーミングのもとで、毎年勝っているチームのスタイルにはかなり違いが見られます。ですから逆に言えば、その目まぐるしく変わるスタイルというのは、トレンドとまでは至らない状況であるものであって、この高校生カテゴリでは、まだまだ育成段階の一通過点だからこそ、スタイルが何かに収束・精錬されていくことがないのではないだろうかと考えるわけです。育成途上だからこそ、それぞれの地域やチームに、チームの勝敗を左右する「変数」的な要素(人・数・能力・環境・戦術・・・)が多くあり過ぎて、何を目指せばよいか・・・という絶対的正解が見いだせない、エースバレーで勝つかも知れないし、個人に依存したシステムで勝つかもしれないし、組織や戦術の構築で勝つかも知れない、複雑な攻撃パターンで勝つかも知れないし、ディフェンシブな戦いで勝つかもしれない。
 ですから、特に小中高校バレーの指導者は、春高バレーから参考になることはたくさんあるけれども、その年の勝ったチームの、見た目のスタイルやカタチだけに注目せず、いろんな人と議論をしながら、それらの基盤にある重要性をみんなで探していくことが重要です。

選手たちのゴールについて

 春高バレーが、小中高校と頑張ってきたプロセスの大きな目標や夢の舞台、大学やVリーグや代表に向けたスタートや登竜門・・・いろんな位置づけがあってもいいのだと考えます。
 ですが、個人的に考えているのは、春高バレーがある種の最終ゴール化することで、チームの中で主力・控えの区分けが発生し、そこに経験値の差が広がり育成や成長に差が発生したり、その後バレーの道を続ける者と続けない者との差、特に高校以後バレーの道が閉ざされてしまう選手の方が多いという現状があるのではないかということです。
 指導者や保護者、メディア・・・高校生スポーツを見守る大人の問題かも知れません。バレーボールを始めて練習やプレーを頑張っている大変多くの子供たち選手層のピラミッドの頂点ばかりに目がいきがちです。とはいっても、先ほど述べたように長身選手をしっかりオールラウンドなスキル育成をさせようという機運も生まれてきていますが、それも一握りのタレントが対象になっているに過ぎないです。
 ゴールにもいろんなゴールがあっていい、でもふるい落とすようなゴールではなく、自分が目指したい方向で目指したい人は広く多く目指せるようにしてあげる環境やシステムを作らねばいけないのではないでしょうか?少なくとも、日本以外の国ではそういった取り組みがなされ、何年かかけて代表チームの成果につなげていると思います。

アンダーカテゴリやらねばならないこと

 現状、小中学バレーの指導現場の実態は、すべてではないものの、いかに指導した選手がチーム出身の選手が、春高バレーで活躍する強豪校に選手を送ったか・・・というのが、一つの実績かのように考えられており、高校としても少しでも選手の獲得のためには求めている関係性となっていると思います。
 先に述べたように、春高バレーという素晴らしい舞台のレベルであっても、まだまだ育成の発展途上であり、戦術等には普遍的な集約や定着がなされにくい。だとすれば、まずもって求められるビジョンは、「個の育成」、バレーボールのトレーニング(練習)を積む子供たちには、広く全員にオールラウンドかつ、ボールコントロールスキルだけではない、認知や判断能力、セルフマネジメントとしてのスキルアップがなされることではないでしょうか?
 何年に一度巡り合うか合わないかの大型選手や高い身体能力をもった選手を見つけた時だけオールラウンドな育成に着手するのではなく、アンダーカテゴリの重要なコンセプトの一つに、しっかりと「オールラウンドな個の育成をすべての子供たちに」を位置づけるべきだと思います。
 そうすれば、190㎝、200㎝越えの高校生がレセプションやバックアタックをしても何の驚きにもならない時代になると思うし、実際海外ではそうなっています。もはや小柄な選手は動きが機敏で巧い、大型選手は高さはあるが守れない・・・そういう時代はとっくに終わっているのです。

(217㎝のムセルスキーが難しい体勢からのナイスセット)


(リベロは子供の時から守備専門をするわけではなく・・・)


(リベロはセッターの役割も・・・ゆえにオーバーハンドのスキルも)


(バレー選手である以上スパイクはみんなできるようになってこそ・・・)


今年の春高バレーの男子高校生たちは素晴らしいバレーを随所に見せてくれましたし、新しい現代バレーに戦術や選手育成の面でチャレンジをしている指導者の方に敬意を表したいです。さらなるチャレンジと本気の育成が日本全国に広がることを願っています。


(2021年)

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