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2017年1月6日金曜日

「育成の実現」とは?

 近年、どの競技でも「育成」の大切さが言われるようになってきました。重要な国際大会で頂点に立った国や競技の成功の要因のひとつに、「育成」現場の改革が挙げられる例も珍しくはありません。
 一言に、育成とか選手を育てると言っても、その中身には幅があって、例えば所属するチーム内でのスパンなのか、カテゴリを超えたスパンなのか。特定の選手を対象とするのか、幅広くプログラムを提供するのか。「育成」という言葉を使っている場合、どのようなものとして捉えているのかは、注意しなければならない点だと思います。

 さて、日本のバレーボール界において言われているところの「育成」とは、どんな意味合いで用いられているのだろうかと思う時があります。そこに、どの程度関係者の本気度があるのだろうか?ということも併せて考えちゃいます。
 みなさんご存じの通り、日本のバレーボールの現状は、いろいろと大変な状況になっています。というのも今に始まったことではなく、もうすでに20年、30年前から始まっているわけですが、近年は本当に大変です。
 そんな中、言われる「育成」ですが、
  
  ① 細く長く型、細長いピラミッド型の育成
  
  ② 太く長く型、山脈型の育成
 
とがあると思っています。

 ①は、有能な選手を絞り込み、絞り込まれた特定の選手に対し、指導環境を提供すること。

 ②は、とにかく幅広い人を対象にプログラムを提供し、それぞれの自身の判断で自らの道を選択できること。

 本来は、②であるべきだと思っています。ところが、日本のバレーボール界で言われている「育成」は①となっていると思います。

 個人的には、①は狭い意味での育成だと思います。小学バレーで活躍した選手が中学に集まり、中学で活躍した選手が高校に集まり・・・そうやってリクルートされながら、上のカテゴリまで残ったエリート型の選手を輩出することを育成と言われていることが多いです。
 しかし、これは同時に、その時点でリクルートの対象にされなかった大勢の選手たちがいるわけで、ではその選手たちが能動的積極的に自分の望む環境を選べたかといえば、選ぶこともできず、その後に遅咲きの成長をしても、もはやレールから外れてしまっては見出してもらえるチャンスは狭められてしまうわけです。
 ①は、どちらかというと、「育成」というより、「選抜」なのだと思います。

 小中学生の育成世代とも言える子どもたちのスキルアップの方向性にいろいろ試行錯誤されている方はたくさんいるかと思います。小学生のうちから休日返上でびっちり練習するところもあれば、週2~3回程度にのんびりやるところもあろうかと思います。それぞれのチームの方向性や目標も違っているので、様々な活動のカタチがあるのだろうと思います。









 

例えば、習得させたいスキル一つ一つをコップに見立てます。
そしてコップの大きさや容量、形を選手一人一人の個性、能力の個人差だと考えます。
そのコップに水を注ぐ作業が、練習だったり、学習、経験だと考えます。
コップが水で満たされたら、目標とするスキルの習得がなされるとイメージします。
与えられる水の量は一定です。つまり私たちに与えられた時間であり身体です。

そう考えると、子どもたちへのコーチングの見方に新しい感覚は出てこないでしょうか?

 1つのコップに集中して水を注ぐということは、1つのスキルに絞って練習をさせていくということです。レシーブだけ、とか、スパイクだけ。または特定のポジションの動き・・・そういった考え方になろうかと思います。

 一方で、いくつか用意されているコップに均等に水を注ごうとします。コップの水は均等に水が入りますが、当然、コップが水で満たされるまでには時間がかかります。

 ここで気をつけたいのは、コップは、一人一人の個性と考えますから、コップの大きさも形も人によって違います。しかも、それらの形状は自分はおろか、誰かが見ようとしても見えない、姿の見えないコップなわけです。どのくらいの量を注げば水が満たされるのかは、わかりません。また注げる水自体も眼に見えるものではありません。

 こう考えていくと、子どもたちに、バレーボールの練習をさせていく時、どのようなアプローチがいいものだろうかと考えさせられます。
 個人のスキルアップを、水の分配でイメージしてみたわけですが、もう一つ考えなければならないのは、チーププレーとしての視点です。
ディグのコップは水満杯だけど、ブロックのコップには水ゼロ。
スパイクのコップは水満杯だけど、レセプションのコップはゼロ。
そういった長短はっきりしている子どもたちが明確な分業のもとでゲームを成り立たせる場合があります。
 一方で、どのメンバーも平均的に各コップに水が注がれているも、いずれのコップも水は半ばくらいまでしか注がれていません。全員がそこそこのスキルをもって、トータル的にゲームにあたる場合もあります。実際は、それでも各々の特性や長短を考慮するわけですが・・・。

 どれが正解か?ということではなく、「育成」をしなければならない時期に、どのように練習や指導を考えたらいいのでしょうか?ということをたまに立ち止まって考えなければいけないのではないかと思うわけです。
 水をたくさん注ぎたければ、水道の蛇口を開き続けなければなりません。つまりは練習をし続ける、いかに練習量を稼ぐかということになるのでしょうか?でも365日朝から晩まで子どもたちに練習を強いるのは賛同できません。



「育成の実現」って「早期の完成」と同義ではないと思います。

どんなカテゴリにおいても、いい選手に出会う確率を上げること。
 早熟の選手だけが、エリート的な狭いレールに乗るだけじゃなく、後から能力を開花した選手も、活躍できるようにしなければなりません。選手の発掘は、宝探しとは違うと思います。「探す」なんていう他力本願な発想ではなく、「育てる」ことで、いい選手に出会う確率を上げたらいいのだと思います。
 そのためには、バレーボールに出会ったすべての人が、その後のモチベーションを維持し、「やりたい!続けたい!」と思わせることが大事です。
 指導者は、1年や2年での短期スパンでの完成を求めていれば、上手くいかないことも多くなります。早熟出来ない選手は切り捨てられていきます。ですから、育成においては、個人の地道なスキルアップを評価できるようにしなければなりません。
練習では、指導者の頭ごなしな指導や強制的な訓練ではなく、「そうなるように」、「一緒に」、「試していく」ようなドリルを見守ることが重要です。オールラウンドな練習も当たり前にしておきたいです。スパイクやブロックはできても、ディフェンスやセット(トス)ができない。逆に身長が低いからと言ってスパイクやブロックをやらせてもらえず、ディフェンスばかり教え込まれる・・・。偏ったスキルのまま上のカテゴリに進んでいけば、上のカテゴリでの強化のタイムロスになっていきます。
 チームフォーメーションでも、いきなり選手を固定したりポジションを専門家するのではなく、6-6システムを導入に、柔軟に複数のポジションに対応できるよう、段階的に編成していくべきです。 
 小学生に複雑なコンビネーションを伴う攻撃を教え込む必要があるでしょうか?それを優先することによって、早熟じゃない選手は「できない」レッテルを貼られてしまいます。その結果様々なスキルのプレー経験を奪われます。できる一部の子をセッターとしスパイカーに固定していく現象が進んでいきます。
 何も、ブラジル男子がやっているような、シンクロ攻撃を小中高校生でやることが必要不可欠なわけではないと思います。その前に各カテゴリでは、「できる選手」だけを優遇するのではなく、全員がトレーニングを受け、全員が習得を目指すようなプログラムや内容があるべきです。少なくとも中学生カテゴリまでは、「オールラウンドな育成」は絶対必要だと思います。極端に言えば、誰もが高校カテゴリ以上でセッターやリベロを務められるようにしておくことが理想だと思っています。

 世界的なトップレベルのバレーの推移をみても、戦術の発展に伴い、現在は個人のプレーのオールラウンド化が求められ、勝敗に影響を与えているような気がします。セッターは、ブロック力も求められるようになっているし、リベロはセカンドセッターとしてのセット能力が求められてきています。ミドルはブロック要因だけじゃなく、バックアタックやリベロを不要とするディグやセット能力が当たり前のように求められています。日本の育成現場もかなり遅れをとっているようです。

 クリニックなどの機会で、例えば大学の指導者が中学生を指導したり、中学の指導者が小学生を指導したり、異カテゴリ間の練習場面の機会をみていると面白いです。実に「のんびり」「丁寧に」指導されていることが多いです。ところが、自分のチームになると、苛立ちを覚えたり選手に高圧的になったりすることも珍しくありません。指導者と選手間の距離感や、ニーズの切迫感が違うからだと思います。面白いもんです。だったら、自分の選手にも、丁寧にじっくり接することは可能だと思います。「勝ちたい」「実績を出す」「指導力の有無」・・・結局は指導者のエゴの論理で動いていることが多いのだと思います。

 世界に通用するバレーボール選手の育成の実現にはまだまだ険しい道のりがありそうです。


(2017)

2017年1月5日木曜日

VOLLEYBALL HOT or COOL

 バレーボールを観る者として、コーチングに携わる者として、選手のキャラというのは、当たり前のことですが実に様々で、そのプレースタイルとともに観ているとまた見応えが増します。
 また、バレーボールはよく「集中と感情のバランス」が非常に重要と言われることもあります。自分のメンタリティを充実させパフォーマンスを発揮するということだけじゃなく、ネットの向こうにいる相手のメンタルを上回り、呑みこんで優位に立つということも重要であり、人間のメンタリティがプレーや勝敗に大きな影響を与えます。時には個人のメンタリティが、そしてそれらが影響し合ってチームのアトマスフィアが、同じ人間、同じチームでもパフォーマンスを大きく変えることがよくあります。
 感情を表に出し、自分やチームを鼓舞したりリーダーシップを発揮するタイプ、あまり感情は表に出さず淡々とプレーするもいつも冷静沈着と安定性をもたらすタイプ・・・いろいろあります。「集中と感情のバランス」で考えれば、彼ら(選手たち)は、そのベストなバランスを保つのに適した、自分の表現方法や振る舞いに至っているのだと思います。
 世界のプレイヤーをみていると、スパイカーやブレイクサーバーなどのオフェンシブなプレースタイルの選手にはやはり、ホットな選手が多いですね。一方でセッターやリベロなどディフェンシブな役回りの選手にはクールな選手もよくみられます。
 でも地域性もあって、ブラジルなどはポジションに関係なく、ホットで情熱的な選手が多いです。ラテンの血というやるでしょうかね?これに対しアメリカやロシアなどはクールな選手が多い印象がありますが、それも個人差といったところでしょうか。
 育成世代の子どもたちのコーチングに関わることが多い自分にとって、このようなプレースタイルとメンタルの関連を考えたり、伝えたりすることは大事だと思います。ちょっとそういった視点でみていこうと思います。

 
【HOT(passionate)】

 ホットでアグレッシブなメンタルというのは、自分のパワーを最大に引き上げたり、チームの士気を一気に上げ、さらには相手にプレッシャーを与える効果にもつながります。
 一方で、繊細なコントロールや判断を欠くこともあり、それによって生じたミスが心理的に致命傷になることもあります。ゲーム展開が不調になった時にその修正というのも大事なポイントになってくると思います。

Felipe Fonteles(BRA)


Ricardo Bermudez Garcia(BRA)


Ivan Zaytsev(ITA)


Wallace de Souza(BRA)


GIBA(BRA)


Sérgio Santos(ITA)




【COOL】

 クールなメンタリティは、冷静な状況判断やコミュニケーションをしやすくします。またゲーム展開の好不調に左右されにくく、いつでも巻き返しのチャンスを得ることができると思います。
 一方で、個人のプレーがしっかりしていれば周囲への安心や信頼を集めるも、プレーが安定しないままクールでいるのは逆にチームの不安感を増大させます。チームに活気が無くなり消極的な空気に包まれてしまうので、クールなスタイルをとる場合には、個人の確固たるプレーへの自信と信頼が求められると思います。

Robertlandy Simón(CUB)


Leon(CUB)


Paweł Zagumny(POL)


Lucas Saatkamp(BRA)


Matt Anderson(USA)


Simone Giannelli(ITA)


 
 ちょっと昔の日本のバレーボールで強烈に印象に残っているのが、ロシアから来てJTで活躍したサベリエフ(Ilya Savelyev)という選手。彼は超クール派で絶対笑顔を見せませんが、まあまあ得点をもぎ取りまくります。一方同時期にブラジルから来た、現サントリー監督のジルソンは、まさにブラジルらしい情熱的なプレースタイル。今から15年くらい前の日本で、こんな魅力的で好対照なキャラの選手が日本で戦っていたのだと今さら気づかされます。 



最後に、2000年のシドニー五輪の男子のゲームから。
ユーゴスラビアとロシアの試合ですが、ロシアには先ほど紹介したクールなサベリエフが活躍しています。
対するユーゴには、グルビッチ兄弟がいて、この兄弟もホット&クールが対照的です。
兄のウラジミール・グルビッチはアタッカーでアツく、弟のニコラ・グルビッチはセッターでクールなスタイルで、いずれもチームにはなくてはならない存在でした。



今回は、バレーボールにおける選手のキャラクターのホット、クールの視点で何となく書いてみました。バレーボールを観るみなさんは、どちらのキャラクターがお好きですか?プレーをされているプレーヤーのみなさんは、ホット派ですか?クール派ですか?自分が一番力を発揮しやすいのは、またはチームが力を発揮しやすいのはどういったキャラでしょうか?見つけてみるのも面白いと思います。


(2017年)