ジャパネット杯 春の高校バレー2021
第73回全日本バレーボール高等学校選手権大会
今年の女子は、どこが勝ってもおかしくないような、どの試合も熱戦が繰り広げられました。決勝は、就実(岡山)と大阪国際滝井の対戦となりました。
就実は、特に深澤姉妹の攻撃力が素晴らしく、OHの深澤めぐみ選手がレフトから打ちまくり、MBの深澤つぐみ選手も多彩なスパイクを放ち、チームの得点源になっていました。
国際滝井のOH中本選手を中心にダイナミックにスパイクを打ち込んで応戦していました。
就実と国際滝井との女子決勝では、いわゆるエースバレー、レフトからのスパイクの打ち合い、パワフルなスパイクの応酬が中心となる試合展開でした。
高校女子バレーは従来、セッターに正確な返球をし、いわゆる「スピード重視の展開」を作るべく、ニアネット傾向から速く低めのセット(トス)による、「はやい攻撃バレー」を志向する戦い方が目立っていたように思います。
ところが近年は、例えば東京の下北沢成徳高校が、選手のフィジカルをしっかり鍛え、戦術以前の個人のパフォーマンスや強度、しっかり跳んでしっかり打つ、しっかり上げる・・・というチームが勝つなど、少し変化も見られてきました。
そんな中、今年の春高バレーの女子の上位チームの試合を観ても、特に決勝は、はやいバレーとか高速バレーなどというネーミングがつくような戦術やコンセプト先行の戦い方ではなく、ゲームのラリーの中で、スパイカーがその選手のもつパフォーマンスをしっかり発揮できるような展開、不必要なスピード重視によるはやい低いセットによる攻撃とコンビネーションに固執しないオフェンスシステムが中心となった展開だったと思います
ともすると、エースバレーとか単調なオープンバレーという見方をする人もいるでしょうが、私は個人的には、高校生カテゴリは、競技における強化のゴールではなく育成途上であってほしいしあるべきだと思うので、今年の春高バレーの上位チームのバレーは、個人のパフォーマンスを犠牲にした戦術ありきの展開よりも、個人のパフォーマンスをしっかり発揮しようとする場面が多いゲームに、あるべき姿を見たような気がしています。右利きのOHがレフトからスパイクを打つとき、特にオープンやハイセットなどでは、かつてはストレート方向に打ったりブロックアウトでしのぐことが多かったのに対し、しっかりクロス方向に打ちぬく選手も増えたなと思います。
果たして、今年の結果は、コロナの影響による練習時間の確保やトレーニング不足などのために、本当は複雑なコンビネーションを要するような理想のバレーボールが間に合わなかった結果だったのでしょうか?完成するはずのゲームモデルが仕上がらなかったのでしょうか?
正直、一観戦者としては判断できかねますが、私はそう考えません。
むしろ、女子決勝の就実高校、国際滝井高校がみせたバレーボールは、まだまだ成長途中にある高校生プレーヤーたちに、限られた期間の中で限定的な戦術を用いたり、それによる限定的な技術だけを要求したりせず、しっかり守ってしっかり打つ、より高くより強くなどのような、当たり前・基本を追求したのではないかと考えました。
高校女子でもバックアタックやジャンプサーブも見られるようになってきました。概して女子バレーは、男子バレーの戦術や技術の後追い的に発展していくわけですが、それにしても高校バレーでは、女子のアップデートの余地はまだまだ大きいと思っています。
「女子は筋力がない」・・・などという考え方が女子的な女子固有の戦術として生み出されたり、そのことで先行した男子のゲームやプレーの考え方やモデルが女子に浸透していきにくい要因になっていると考えています。しかし、筋力がないというのは、「男子に比べて」というだけでのことであって、女子というカテゴリ内でのゲームにおいて、男子の戦術が不可能を意味しているとは言えません。
例えば、バックアタックや、センター付近からの攻撃に対してブロックが1枚になるという状況はなかなか女子バレーでは解消されません。バックアタック自体も特定の選手しか繰り出しておらずその発生率もまだまだ低いです。オーバーハンドによるセット(トス)はキャッチ気味なハンドリングに依存しており、ハイセット場面はアンダーハンドになることも多いです。OP(オポジット)の選手の育成も遅れていると感じています。
今年の就実や国際滝井による決勝戦から、いろんな戦術の取り方があれども、まずは選手個々のフィジカルやスキルのハイパフォーマンスを追求するという基本に立ち返ることで、アップデートが始まっていくのではないかと思います。
(※2000年シドニー五輪の女子決勝キューバが五輪3連覇)
動画は、もう20年前のものであり、プレースタイルも古く、一見懐かしさを覚えるゲーム展開です。バックアタックもまだまだ見られません(どうしてもロシアのカルポリ監督に注意が向いちゃう笑)。
ですが、ここで見せているキューバ女子のリベロを入れていないツーセッターシステム(6-2システム)などによるゲームのスタイルは、中学バレーや高校女子バレーの育成の在り方という観点からは参考になるのではないかと、個人的には考えています。個々の選手がしっかり跳び、しっかり打ち、より強くより高くを追究、鍛えられているのがわかります。ここから20年の間、女子でも、バックアタックやバンチ・リードブロックシステム、オポジットの育成強化の採用などと進化が続いています。
今後の高校女子のバレーボールスタイルのアップデートに注目していきたいです。
(2021年)